北の果ての夢
一 雪原
降り積もる雪の白さよ
果てしなき野に
言葉も埋もれて
ただ静寂のみ残る
人の世の騒がしさも
この白きに包まれれば
いつしか夢となりて
消えにけり
二 流氷
オホーツクの岸辺に
白き氷の群れ来たり
寄せては返す波の音に
遠き国の便りを聞く
あはれ
あの氷のひとかけらも
かつては大海の水
巡り巡りて
ここに至りけり
三 霧の摩周湖
霧に隠れし湖よ
その深さを誰か知らん
見えぬゆゑにこそ
美しく思はるる
見せぬゆゑにこそ
恋しく感じらるる
人の心も
かくやあらむ
四 十勝野の夕暮れ
広き野の果てに
夕陽沈みゆく
その紅さよ
燃えながら消えてゆく
この世のものとも思はれぬ
牛の群れ
遠く小さくなりて
夜の帳の中へ
吸はれていにけり
五 然別の秋
山の湖よ
なぜそなたはかくも青き
空の色を映すか
それとも
己の悲しみを
深く抱きしめているのか
紅葉ひとひら
水面に落ちて
波紋ひとつ
静かに広がりぬ
六 冬の函館
夜の港に灯り揺れて
あの光のひとつひとつに
誰かの夜がある
波は黒く
空は星をちりばめて
されど人の心の寂しさは
星にも波にも
癒されることなく
ただ夜が更けるのみ
七 春の訪れ
長き冬の果てに
ようやく雪解けの水
音を立てて流れ始む
嬉しとも
悲しとも言へぬ
この心よ
去りし冬を惜しむか
来たる春を喜ぶか
人の心とは
かくも定まらぬものを
八 宗谷の岬
日本の果てに立ちて
北の海を眺むれば
水平線の彼方に
何があるとも知れぬに
胸の高鳴りを
如何にせん
果てがあるゆゑに
人は憧れる
果てがあるゆゑに
旅は終はらぬ
あはれ
果てとは
始まりのことなりけり
もののあはれ―― 北の大地もまた 人の世と同じく 生まれ、移ろい、消えてゆく ただそれだけのことを これほど美しく 見せてくれるものを